Liber Primus 第一之書

購入した本、読んだ本について紹介していきます

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新着図書(4)_

▼セリーヌ『夜の果ての旅 (上)(下)』(生田耕作訳 中公文庫)
 セリーヌを一躍有名にした自伝的小説。こうした作品が手軽に文庫で手に入るのはとても有り難い。

▼アンナ・カヴァン『氷』(山田和子訳 ちくま文庫)
 版元品切れとなっていたアンナ・カヴァンの最晩年の著作の3度目の復刊。カヴァンは『アサイラム・ピース』で初めて知ったが、書名のごとく、氷の結晶のように冷たく澄み切った孤独と疎外の作家の作品世界は、独特の魅力の光を放っている。

▼河合隼雄『生と死の接点 〈心理療法〉コレクションIII』(河合俊雄編 岩波現代文庫)
 著者は一般向けに多数の著作を世に送り出しているが、このシリーズは臨床心理学者である子息が、専門性の高い論文を中心に編んだもの。既刊に同名のハードカバーがあるが、内容が一部差し替えられ、解説が付されている。

▼P・K・ディック『宇宙の眼』(中田耕治訳 ハヤカワ文庫SF)
 ディック初期の代表作のひとつ。ずいぶん前から本書について耳にしていたが、ようやく手にすることができた。

▼ケン・リュウ『紙の動物園』(古沢嘉通訳 新ハヤカワSFシリーズ)
 近年最も注目されている中国系アメリカ人SF作家の、日本オリジナル編纂の短篇集。まだ冒頭数篇を読んだだけだが、小説としての確かな構成と叙情性が印象的だ。

▼小池寿子『謎解き ヒエロニムス・ボス』(とんぼの本 新潮社)
 幻想的な作風で著名な画家についての、最新研究に基づいた入門書。カラー図版が多数含まれ、この特異な画家の作品世界を概観することができる。版型が小さくて絵の迫力に関しては物足りないが、手頃な価格なので致し方ないか。著者は中世美術の専門家で既に多数の著書があり、恰好の案内役と言えるだろう。
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  1. 2015/04/28(火) 19:32:49|
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読了:ベスター『虎よ、虎よ!』

SFオールタイムベストで必ず挙げられる古典的な作品を続けて読んだのでその感想を順次書いていきたい。

▼アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』(中田耕治訳 ハヤカワ文庫SF)
これだけ著名で評価の高い作品だと、本国はもとより日本も含め世界中で数多くの批評が書かれているだろうし、またおそらくその評のほとんどが、この作品の傑作たる所以については一致しているだろう。主人公の激しい情念、息をもつかせぬプロットの展開、よく描き込まれた人物造形の巧みさ、機知に富んだ会話を通して読者に伝えられダイナミックに展開する登場人物間の関係、SF的なギミックをふんだんに使って描写される絢爛で壮大なイメージ、そして結末での宇宙論的な広がりと意想外の収束等々、数え上げればきりがない。実際読んでいて、良くできたハリウッド映画を観るような、まさにワイドスクリーン・バロックと評される面白さだった。また、今から約60年も昔の、1956年という時点で書かれたものなのに、SF作品として現在でも十分に楽しめることも驚くべきことに思える。SFという文学ジャンルにとって避け難いこととして、「時代に追い越される」ことがあるだろうからだ。

おそらくそうした点についてもいろいろに作品分析がされているだろうと思うのだが、今回自分が読んで最も感銘を受けたのは、実はそういうところではない。この作品を、単に消費され忘れ去られていくエンタテインメント(それがどれほど良くできたものであったとしても)以上のものたらしめているのは、物語の終盤になって主人公が到達した境地にあると思う。復讐の念に突き動かされ、時には人を殺すことも厭わなかった男は、自らの行為を振り返り述懐して、次のように言う。自己を教育した結果、自分はもはや復讐を誓った「虎」ではなくなり、自分自身を考える動物になって、その結果良心を持つに至った、そして、自分がもたらした破壊、殺戮いっさいの贖罪として、自分は罰せられることを欲する、自分が背負う呪われた十字架を外したい、と。

「罰せられることを欲する」、これはきわめて奇異に響く言葉ではないだろうか。通俗的な理解では、有利な立場に立った主人公は、敵を出し抜くならともかく、わざわざ自分に不利なことをするというのはあり得ない。エンタテインメント作品なら、それは物語の結構の破綻にしかならない筈だ。しかし本作では、そのあり得ないことが作中で起きる。復讐の念に燃えた男がついに仇敵を突き止めたとき、それは自分が最も大切に思う存在であったという運命になす術もなくなってしまう。ここまでは物語の展開として理解できるが、そこで主人公は相手との対話において、不正を糺し悪を滅ぼすため、正義は我にありという思いで今まで自分が行なってきたことは、実は無辜の人びとを死に至らしめることになっていたのだと知らされ、その結果意識の根源的転回=回心を遂げる。すなわち、自分が行なってきたこと、自分という存在を初めて省みる=反省するに至って、自らを嫌悪することになったのだ。そして自分がもたらした不正の回復を求めて、償いすなわち罰を受けることを願うようになる。

これはあからさまにキリスト教的な倫理観と言える(物語のクライマックスが、ニューヨーク中心部のセント・パトリック大聖堂で起きるのは偶然ではないだろう)。キリスト教圏でなければ、こうした発想は決して出てこないと思う。自分がもたらした破壊と殺戮は、物理的には決して取り戻すことはできない。それにも関わらず、主人公はこうした不正=罪の克服である贖罪としての罰を受けることを望む。その意義は、単に自分が悪を為したことを認め、謝罪するということに尽きるのではない。そもそも誰に対しての謝罪なのだろうか。作中の描写では、自分が死に至らしめた人びとの関係者に対する謝罪という風には描かれていない。また、悪しき行ないを為したことによって悪しき存在となった自分を救うための贖罪でもない。もしそうなら、それは贖罪と言いつつ結局は自己救済であって、我欲の変形に過ぎなくなる。しかし本作の主人公はそのいずれでもないように見える。主人公は、自らの行為によって不正(破壊と死)が生じたことの意味、すなわち自分の行ないが罪=倫理的な悪であり、その行為そのものによって罪が世界のうちにもたらされてしまったので、それを克服し、回復するための手段として罰を望む。これは完全に倫理的・形而上学的・神学的世界観になっている。作中では、主人公の科白を通して簡潔に語られるだけだが、敷延すればそういうことになるだろう。

活劇調のエンタテインメント作品の筈だったのが、終盤に来て突如倫理的・神学的テーマが出現してしまったのだ。そしてそれが、単に教条的なもの、作品のイデオロギーとして読者に直接的に押しつけられるのではなく、主人公の自己反省によって、主人公が内的自己意識を獲得することで生じていることがまた興味深い。これは例えば、人工知能が自己意識を獲得するといったこととは違って、「倫理的」自己意識なのだ。しかもそれは、SF的な道具立てで生じているのではない。こうした倫理的内面性を獲得した主人公は、時空を超越して最終的に、物語のそもそもの出発点に辿り着き、自らを特定の時間と空間、状況に確定し、そこから新たな生を辿り直そうとする。一見するとそれは、主人公が獲得した時空を超越する能力からすればいかにも不合理であって、その力を以てすれば作中世界で絶大な権力を握ることも可能なのだ。しかしそれこそが、主人公が願った贖罪の行為なのであり、常人を遥かに超える能力を自ら捨て、謂わば実存的な有限性を引き受けることによって、「人間」であろうとする主人公の意志の実現だった。

小説としての構成から見れば、こうした展開は破格であって、バランスを欠いていると言えるだろう。実際、主人公の自己意識の変容は急すぎて書き込み不足の感は否めないし、解説を見ると、本国では本作よりも小説としてまとまりの良い『分解された男』の方が評価が高いようだ。そちらは未読なのでわからないが、バランスの悪さが本作の欠点かと言うと必ずしもそうではないと思う。高山宏風に言えば、「異貌のSF」とでも評することができるだろうか。SFは、極限まで異化された世界を描くことで想像力と思考を解放する文学的試みであるともし言えるのならば、「異貌の」という形容は冗語であり同語反復だ。しかし、SFという大衆的な娯楽文学の形式にあくまで依拠しながら(手練れの職業作家であったベスターは、「純文学」的であろうとする意識など全くなかっただろう)、粗野で野性的な主人公が内面性を獲得し倫理的な苦悩を抱くまでに意識が発展していく様は、さながらSFという文学形式の約束事が内から突き崩され、ジャンル的娯楽性の枷が主人公の意識の変容とともに克服されていくようにも読めたのだった。
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  1. 2015/04/27(月) 19:06:24|
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新着図書(3)

人文書関係もあれこれと。内容紹介も書きたいがとりあえず書目だけ(後で書き加えるかもしれない)。

ヴァルター・ベンヤミン『ボードレール 他五篇』(ベンヤミンの仕事2 野村修編訳 岩波文庫)
       同      『記憶への旅 ベンヤミン・コレクション3』(浅井健二郎編訳 ちくま学芸文庫)
J・G・フレイザー『初版 金枝篇』(上)(下)(吉川信訳 ちくま学芸文庫)
    同     『火の起源の神話』(青江舜二郎訳 ちくま学芸文庫)
吉田健一『英国の近代文学』(岩波文庫)
土屋恵一郎『能 世阿弥の「現在」』(角川ソフィア文庫)
テリー・イーグルトン『イデオロギーとは何か』(大橋洋一訳 平凡社ライブラリー)
坂崎乙郎『エゴン・シーレ 二重の自画像』(平凡社ライブラリー)
西郷信綱『源氏物語を読むために』(平凡社ライブラリー)
金聖響/玉木正之『マーラーの交響曲』(講談社現代新書)
横手慎二『スターリン 「非道の独裁者」の実像』(中公新書)
田中純『建築のエロティシズム 世紀転換期ヴィーンにおける装飾の運命』(平凡社新書)
菊地章太『葬儀と日本人 ——位牌の比較宗教史』(ちくま新書)
G・バランディエ『舞台の上の権力 政治のドラマトゥルギー』(渡辺公三訳 平凡社選書)
ジャン=リュック・ナンシー『イメージの奥底で』(西山達也/大道寺玲央訳 以文社)
『ニュクス Νύξ』2015年1月(堀之内出版)

その他仕事絡みで臨床関係も。
松本俊彦『自傷行為の理解と援助 「故意に自分の健康を害する」若者たち』日本評論社
カンツィアン/アルバニーズ『人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション』(松本俊彦訳 星和書店)
森岡正芳『うつし 臨床の詩学』(みすず書房)
河合隼雄『青春の夢と遊び 〈子どもとファンタジー〉コレクションVI』(河合俊雄編 岩波現代文庫)
  1. 2015/04/19(日) 10:43:56|
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新着図書(2)

SF&幻想文学関係も古典的なものを中心にいろいろと。

J・G・バラード『時の声』(吉田誠一訳 創元SF文庫)
    同   『溺れた巨人』(浅倉久志 創元SF文庫)
    同   『終着の浜辺』(伊藤哲訳 創元SF文庫)
    同   『沈んだ世界』(峰岸久訳 創元SF文庫)
バリントン・J・ベイリー『永劫回帰』(境星之訳 創元SF文庫)
      同       『時間衝突』(大森望訳 創元SF文庫)
アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』(中田耕治訳 ハヤカワ文庫SF)
フィリップ・K・ディック『高い城の男』(浅倉久志訳 ハヤカワ文庫SF)
ロバート・A・ハインライン『夏への扉』(福島正実訳 ハヤカワ文庫SF)
R・A・ラファティ『昔には帰れない』(伊藤典夫/浅倉久志訳 ハヤカワ文庫SF)
ジーン・ウルフ『拷問者の影 新しい太陽の書1』(岡部宏之訳 ハヤカワ文庫SF)
ジェフ・ヴァンダミア『全滅領域』(酒井昭伸訳 ハヤカワ文庫SF)
川又千秋『夢の言葉・言葉の夢』(ハヤカワ文庫JA)
ロード・ダンセイニ『世界の涯の物語』(中野/中村/安野/吉村訳 河出文庫)
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『エル・アレフ』(木村榮一訳 平凡社ライブラリー)
アルフレート・クビーン『裏面 ある幻想的な物語』(吉村博次/土肥美夫訳 白水uブックス)
ヴァーノン・リー『教皇ヒュアキントス』(中野善夫訳 国書刊行会)
  1. 2015/04/12(日) 00:06:16|
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新着図書(1)

雑事に紛れてブログの更新が随分滞っていたが、購入図書が溜まっているので順不同で紹介。

▼『モンス・デジデリオ画集』(解説:谷川渥 エディション・トレヴィル)
17世紀に多数の空想上の建築や廃墟を描いた画家の画集。ピラネージを思わせるような壮大で幻想的な建築や廃墟、崩壊の様が強い印象を残す。

▼島内景二『塚本邦雄』(コレクション日本歌人選019 笠間書院)
今まで短歌に対しては、保守的な文学形式という印象しかなくて、ほとんど関心を持ってこなかった。しかし不勉強なことに最近たまたま知ることになった「前衛短歌の旗手」塚本邦雄の句には圧倒された。長い伝統を持ち、それ故に桎梏にもなるであろう短歌という短詩型で、ここまで斬新でラディカルな表現が可能なのかと驚かされる。例えば次のような句がある。「革命歌作詞家に凭りかかられてすこしずつ液化してゆくピアノ」「われがもつとも惡むものわれ、鹽壺の匙があぢさゐ色に腐れる」「聖母像ばかりならべてある美術館の出口につづく火薬庫」。塚本に師事した著者が50句を選び、詳細な解説を加えている。
  1. 2015/04/05(日) 10:22:30|
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Author:cogitans_sum
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